▼056号 「南ア・仙塩尾根女性リーダー」
仙丈ヶ岳からつづく仙塩尾根。マルバダケブキの黄色い花と丸い葉
っぱの陰を登ってくるパーティー。見ると花も恥じらうかわいい女
性がリーダー。30キロ近いキスリングを背にテキパキと指示。あす
の日本は「大女丈夫」。安心して任せられる。ただ恐れ入って道を
ゆずった。
▼056号 「南ア・仙塩尾根女性リーダー」
南アルプス仙丈岳(長野県伊那市と山梨県南アルプス市との境)か
ら南へ三峰岳(みぶだけ)・三伏峠方面につづく仙塩尾根(せんし
おおね)という登山道があります。
ここは展望もなくダラダラとただ長く嫌なところで、一名「バカ尾
根」などと陰口をたたかれます。この尾根に「苳(ふき)の平」と
呼ばれる草地があります。
フキとはいってもマルバダケブキ(丸葉岳蕗)という高山植物の多
年草。葉が丸く大きくフキには似ていますが、高さが1m以上にも
なる野草です。
花も大形で咲くと黄色の花が見事です。それが群生する苳の平は、
暁星平ともいうそうです。暁星平とは、咲き乱れる黄色い花と形が
明けの明星に似ているからだといいます。
8月も旧盆のころ、仙丈ヶ岳からジメジメした仙塩尾根を歩いてい
ました。蒸し暑く汗がTシャツを通して流れてきます。いい加減飽
きたころ、苳の平につきました。
花がいまが真っ盛りでした。黄色い花と丸い葉っぱの陰を登ってく
るパーティーに出会いました。「○○クン、そこの曲がった所で一
本たてるわヨ」。「はい」とトップの男の子。
一本立てるとは、昔大荷物を背負ったボッカが立ったまま休むため
に腰に杖を当てて休んだことから、小休止の意味で使われます。見
ると花も恥じらうようなかわいい女性。
30キロ近いキスリングを背負いテキパキと指示しています。女性は
かくの如く立派に成長し男性は影が薄くなるばかり。こちらは「花
に恥じらう」中高年パーティ。
あすの日本は「大女丈夫」。安心して任せられるに違いないに違い
ない。ただ恐れ入って道をゆずり、再び陰気な樹林帯の中へ入って
いったのでありました。
▼【データ】
【地名】仙塩尾根・バカ尾根・苳ノ平・暁星平(咲き乱れる黄色い
花と形が明けの明星に似ているから)
【所在地】
・山梨県南アルプス市芦安(旧山梨県中巨摩郡芦安村)と長野県伊
那市長谷(旧上伊那郡長谷村)との境。JR飯田線伊那北駅からバ
スで戸台下車、さらに歩いて延べ12時間30分で苳の平。地形図に
「苳ノ平」の地名のみ記載。
【位置】
・苳の平:北緯35度41分42.88秒、東経138度11分38.78秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「仙丈ヶ岳(甲府)」(国土地理院「地図閲
覧サービス」から検索)
【参考】
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『信州山岳百科・2』(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・『山の用語なんでも事典」(山と渓谷社)1984年(昭和59)
・『牧野新日本植物図鑑』牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)
・「世界の植物・1」(朝日新聞社)1975年(昭和50)
・「植物の世界・1」(朝日新聞社)1996年(平成8)
|