▼535号 「山の妖怪・天狗の引っ越し伝説」
【概略】
山につきものの天狗も移住するという。丹沢の相模大山伯耆坊は名
前の通りもとは伯耆大山にいた天狗。かつて相模大山には相模坊天
狗がいたが香川県の白峰に移った。伯耆坊はそのあとに移ってきた
という。ほかにもこのような話があり、それを「天狗の山移り」と
いうとか。
▼535号 「山の妖怪・天狗の引っ越し伝説」
【本文】
各地の名山、霊山に棲むといわれる天狗。そのひとつ神奈川県の丹
沢の相模(さがみ)大山にも伯耆(ほうき)坊という大天狗がいる
ことになっています。
伯耆坊は日本八天狗にも入るほどの大物天狗なのだそうです。しか
し、伯耆坊という名前の通り、もとは鳥取県の伯耆大山(ほうきだ
いせん)に棲んでいた天狗だといいます。
かつて相模大山には別の天狗相模坊がいたといい、それが相当古い
昔、讃岐(香川県)の白峰に移ってしまいました。保元(ほうげん)
の乱(1156年、平安後期)讃岐に流された崇徳院の白峰の配所を毎
晩のように訪れ、崇徳院を慰めたのはこの相模坊だったといわれて
います。
相模坊のいなくなった相模大山。その後、室町時代中期以降、伯耆
大山から伯耆坊天狗が移ってきました。
原因は南北朝の抗争後、大仙寺の衆徒が宮方と武士方に分かれ憎み
あい、坊を焼いたり焼かれたりで霊山の面影もなく山が荒廃してし
まいました。
そんなていたらくに伯耆坊が嫌気をさして相模大山に移ってきたの
だろうとのことです。
相模大山の阿夫利神社下社左わきには、いまでも伯耆坊の石碑があ
ります。またケーブルの途中の駅・不動前の大山寺には伯耆坊の大
神の祠(ほこら)も建てられてています。
なお、いま伯耆大山には清光坊とという天狗がまつられています。
このように天狗が移住するのを「天狗の山移り」といっています。
【参考】
・「図聚天狗列伝・東日本編」知切光歳(三樹書房)1977年(昭和5
2)
・「天狗の研究」知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
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