▼568号 「北ア・三俣蓮華岳のライチョウ」
【概略】
「嘉門治が蓮華で打った雷鳥の味噌汁も出来上がる。これを取った
時、雛が側でピーピー啼くのを聞いたら、妙な心持がして、今夜の
料理は断じて食うまいと決心したけれど…肉は鶉に似て頗る美味
だ」。辻村伊助の「飛騨山脈の縦走」明治42年7月26日の項の一文。
今は昔の出来事だった。
・長野県大町市と富山県富山市、岐阜県高山市との境
▼568号 「北ア・三俣蓮華岳のライチョウ」
【本文】
わが国の本州中部地方の、それも2400m以上の高山にだけに生息す
るライチョウは登山者のアイドルであり、特別天然記念物に指定さ
れています。
いまはいじめたり、ましてや食べることなどとても考えられません。
法律的にも罰せられます。しかしこんな法律がなかった明治時代は、
よく食べていたらしい文章があります。
1936年(昭和11)発行の単行本「ハイランド」の一文「飛騨山脈の
縦走」(辻村伊助)の1909年(明治42)7月26日の項に「火が焚か
れる、飯が煮える、嘉門治が蓮華で打った雷鳥の味噌汁も出来上が
る。実はこれを取った時、まだろくろくに舞えもせぬ雛が側でピー
ピー啼くのを聞いたら、なんだか妙な心持がして、今夜の料理は断
じて食うまいと決心したけれど、肉となって鍋の中に浮いて居れば
………肉を食わなくともあの雛を如何する事も出来ないと思い切っ
て箸を取る、肉は鶉に似て頗る美味だ」とあります。
この文から当時はよく山中で捕まえて食べていたらしいことが伺え
ます。へえ、あのライチョウをねえ。
ある年の8月、黒部五郎小屋からもうすぐ三俣蓮華岳に着くあたり、
登山道の真ん中でライチョウが動かない。登山者が気を遣って先に
進めません。うしろから続く人たちが次々につかえ、一列にならび
はじめました。なんとも今昔の感がある文章です。
▼【データ】
【山名】三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)・鷲ノ羽岳・西鷲羽岳
・三国三つからみ・山ヶ国出合・三ツカシラ。鷲羽岳(三俣蓮華岳)。
日本山岳会3国境にあるレンゲの山・三俣蓮華岳と命名。三俣蓮華
岳は信州側の呼称。三俣蓮華岳は大正期に登山した大関久五郎によ
ってつけられたといわれる。一説にレンゲ肝(肝臓)に由来との説
もある。
【所在地】
・【高山から三俣蓮華岳】:・長野県大町市と富山県富山市(旧上新
川郡大山町)、岐阜県高山市上宝町(旧吉城郡上宝村)との境。大
糸線信濃大町駅の南西27キロ。JR高山本線高山駅からバス、新穂
高温泉終点から歩いて延べ10時間30分で三俣蓮華岳。三等三角点(2
841.2m)がある。地形図に山名と三角点の標高のみ記載。山頂よ
り東北方1000mに三俣山荘がある。
【名山】
・日本山岳会選定「日本三百名山」(第256番選定):日本百名山以
外に200山を加えたもの。
【位置】
・【三等三角点】緯度経度:北緯36度23分23.95秒、東経137度35分
15.85秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「三俣蓮華岳(高山)」。5万分の1地形図
「高山−槍ヶ岳」
【参考】
・「飛騨山脈の縦走」辻村伊助:「日本山岳風土記・1」(宝文堂)1
960年(昭和35)所収
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